人事制度を作ったり、改定したりするときのきっかけに、「従業員の不満を解消したいから」というものがあります。確かに、企業としては「従業員にモチベーション高く働いて貰いたい!」「モチベーションの阻害要因となっているのは何だろう?」「人事制度の○○の部分が問題なんじゃないか?」と考えるのは凄く自然な流れですし、もっともらしいように感じられます。
従業員の不満を解消するために人事制度を作り替えた場合に起きることをご紹介しましょう。
従業員の不満を解消するために人事制度を作り替えた事例
事例1「頑張る人に報いようとしたのに」
職務を遂行する能力を評価することとしていた企業で、業績の高い人の評価が低くなり不満が発生しました。そこで、業績のみで評価をするようにしたら、従業員が短期志向になり、逆に業績が悪化した。
事例2「制度の穴は全て防ぐのだ」
完璧な制度を作って欲しい、と言われたため、様々なサブルールや例外ルールを設定した。結果的に、複雑な人事制度の運用に過大な負荷が掛かるようになったうえ、従業員から「よくわからない」と不満が発生した。
事例3「他社もやってるからウチもやる」
一般社員から、「他社では360度評価を導入しているようだ。当社も導入して欲しい」と言われたので導入。しかし、上司が部下の機嫌取りを行なうようになってしまい、業績は向上せず、管理職昇進を嫌がる者が続出した。
“良い人事制度”を考えるための軸をどう設定するか
このように、従業員からの不満として表出したものをそのまま対応しようとすると、別なところで問題が出てくることがあります。
それは、人の感じ方はそれぞれだし、各人の活躍しているレベルなどによって感じ方が違うから、と言うことが原因にあります。全ての人を満足させるような方法は色んな人が考えていますが、まだ見つかっていません。
そうなると、従業員満足を軸とした価値判断そのものを疑う必要があるのかもな、と思います。全員からの満足は得られない上、それをゴールに設定するといつまで経ってもゴールに到着することがありません。
では、どう考えるべきかというと会社設立の最初の目的、業績向上につながるかどうかという軸で考えていくことが必要になります。
良い人事制度とは、「事業目標達成に向いている制度」だと考えるといいいでしょう。
“悪い人事制度”とは?
制度における良さを定義したので、次は悪い人事制度とは何かということを考えます。
悪い人事制度は、当初目的に到達しない人事制度であると言えます。つまり業績に繋がらない人事制度ということになります。
制度はあるけど、従業員の行動に繋がらない、とか、業績目標と連動していないものです。
従業員行動に繋がらない人事制度
従業員行動に繋がらない人事制度というのは、例えば
「評価基準が曖昧で、何をすれば評価されるのかわからない」というものがあります。
「一人前の社会人になればA評価」と書かれているけど、一人前の社会人って何だよというのは人に依って水準が違ってしまうわけです。このように、曖昧な制度だと制度の実効性が落ちるという観点で悪い制度だと言えます。
あるいは「頑張っても評価されないし、頑張らなくても昇給する。」というような仕組みがある場合ですね。しかし、頑張れと言われるという場合。頑張っても頑張らなくても別に良いなら基本的に頑張りません。
業績目標に繋がらない人事制度
業績目標に繋がらない、というのは東京から大阪に行こうとしているのに、東北新幹線に乗るような仕組みを作っているというような仕組みのことです。
行きたい目標を後押しするための施策になっていないわけです。
専門性を向上させることが事業目標にとって重要なことだと結論づけられたのに、人事制度はローテーションが前提になっていたり、専門性を上げても昇給しない・管理職になると昇給するというような仕組みの場合は、事業目標に対して制度が後押し出来ている体制だとは言えません。
あとは、運用できない制度も良い制度だとは言いにくいでしょう。トヨタの人事制度を町工場に持ってきたとしても、専任の制度運用担当者が居ないときっと運用できず、瓦解してしまうことになるためです。
まとめ
人事制度に限らず、何かを作ろうとなると「良い物を作りたい」と思うのは人の常ですし、真っ当な考え方ではあります。しかし、制度に関してはいつ・どんなときでも適用できるような、絶対的に良い制度というのはありません。
そのため、自社にとって、どんな制度にするのが良いのだろうかという視点を持っておくことが制度構築の観点では重要だということです。