会社が従業員に求めるものは給与支給項目に表れる

  • 人事制度設計

会社が従業員に何を求めているのか、給与明細の支給項目を見れば判るかも知れません。

企業に限らず、何かにお金を払うということは、それに価値を見いだしているということが言えます。家電にせよお菓子にせよ体験にせよ、「それが良い・欲しい」と思ったからお金を払っているわけですよね。

そして、人件費は従業員に居て欲しい(それによって儲けられると考えて居る)から払っている訳です給与の支給項目は更に以下の4つに分けることが出来ます。

給与支給項目を大別すると

給与支給項目を大別すると以下4つになる

1.年齢や勤続によって決まる給与
2.職務を遂行する能力によって決まる給与
3.職務や役割などによって決まる給与
4.業績や成果によって決まる給与

*1~4を全てごっちゃにして“基本給”という名目にしている企業もあり
*その他法定で支払わなければならないもの(残業代とか)などもあり

人事制度、とくに等級から評価→報酬の制度を作るときには、何らかの軸が必要です。何の根拠もなく給与を支払う訳にはいかないので、上記4つの中から何を軸にするかを最初に考えます

「○○が増えたら給与を増やす」と言うことを連動させる仕組みを作ることによって、従業員に対して○○を増やして欲しいということを伝えるわけです。

だから、給与支給項目を見ればあなたのへの給与が

「あなたの年齢や勤続に対して支払われている」のか
「あなたに職務を遂行する能力があると思うから支払われている」のか
「あなたに任せている職務や役割に対して支払われている」のか
「あなたが上げた業績や成果に対して支払われている」のか

が判るわけです。

そもそも年齢給とは

年齢給は、年齢に対して給料を支払うというものです。○歳には○万円、と言うのが具体的に決まっているようなイメージです。最近はかなり見られなくなってきましたが、昔はよくありました。(現在は約3割ほどの企業で導入されているに留まります)

決まり方は以下のようなイメージです。

「大学卒業したての“ふつうの”22歳は、20万円ぐらいでいいだろう」

「25歳ぐらいになったら“ふつうは”結婚するだろうから、少し給与を上げてやらないと」

「30歳になったら“ふつうは”子供もひとりやふたり作ってるだろうから、給与を上げてやらないと」

「40歳ぐらいになったら子供も中学入学が近いんだから物入りになるだろう、給与をあげてやらないと」

・・・

こういう“ふつうの”人生シナリオ(昭和的な人生シナリオ)に基づいて、生活していけるだけの給料を支払ってやらねばならない、という考え方に基づいています。「生活ステージに応じて給料を払うから一生会社に居て欲しい」ということです。

一生生活を見るぞということが暗黙の了解になっていたんですね。一方で、年齢を重ねていると言うことはある程度能力も成長していくだろうという考えに基づいて支払われてきました。

ちなみに、年齢給的な考え方が始まったのは1960年頃と言われています。高度経済成長が始まったあたりで、企業が安定的に成長し、(若年)労働力も豊富に存在していたので、勤続年数を技能伸長の指標としていたためです。(途中退職や中途採用があまりなく、実質的に年齢とイコールになる)

年齢給が不人気になったわけ

年齢給を入れている会社はかなり少なくなってきています。理由は3つあります。

そもそも“ふつうの”人生を歩む人が減った

そもそも“ふつう”の人生を歩む人はかなり減っているということです。25歳で結婚・30歳までに2子誕生・・・という人生を歩んでいる人がどれだけ居るかという話です。これも知り合いをざっと探して貰えばいいと思いますが、恐らく多数派にはなっていないと思います。僕もこの二つどちらも該当していません。

会社が求めるのは年齢ではない

「年を取ったからといって仕事が出来るようになるわけではない」ですよね。あなたが職場でばっと席を立ってあたりを見渡せば、自分より能力や成果の劣った年長者なんてすぐに見つけることが出来るでしょう。 そして、あなたは無意識に自分よりデキる後輩の方から目を逸らしていた筈です。

年齢給による悪影響が大きい

そして、年齢給を入れていると従業員の意識に悪影響をもたらします。それは、「能力や成果を上げずとも給与が上がる」からです。「生存」すなわち「会社に居つづける」ことがモチベーションになるわけです。

そうなると、会社生活の中でするべきことは、「成果を上げる」のではなく「居心地を良くする」ことになるわけです。

それは例えば人間関係だったりするのかも知れません。上司とぶつからない、同僚とぶつからない、部下とぶつからない。それが行動の軸になります。また、仕事をするにしても「頑張っている風に見せる」ことが重要になります。周りからの評価を下げるわけにはいかないからです。

突出して成果を出すわけではなく・かといってサボりすぎない。そんなバランス感覚が必要になるわけです。

それでも根強い年齢給肯定派

そんな年齢給ですが、やはり今でも3割の企業は入れています。年齢給を是とする意見についても紹介しておきます。

年齢給を導入することのメリットは「従業員が生活の予定を立てやすくなる」ということにあります。何歳になれば幾らというのが判るので、生活プランを立てやすくなるわけです。30歳で額面30万円だから、7-8万円程度の家賃の家に住めるな、とかいうことが計算できるわけです。

また、「報酬決定が楽」ということも言えます。何歳で幾らと言うことが判っているので、毎年毎年人事考課をする心理的・業務的負荷から解放されます。

その他の理由として、割とオーナー系企業に多いですが、未だに経営者が、従業員には“ふつうの”人生を歩ませてあげなければならないと思っているケースが結構あります。

能力は年齢に応じて上がるから、年齢給は是?

「能力は年齢に応じて上がるから、年齢給でも良いのでは?」と仰る方が居ますが、これは完全に的外れといえます。「なら能力に応じて給与を支払えば良いじゃないですか」という反論につきます。

もし仮に年齢に比例して能力が上がるということがあったとしても、企業として欲しいのが能力だったとするならば、

給与→能力

ではなく

給与→能力=年齢

という、無駄な変数を介在させると、制度設定の意図が上手く伝わらなくなります。悪手です。

年齢給はなくした筈なのに・・・

最後に、「年齢給」という名前でなく、能力給や職責給という名前が付いていたとしても、年齢給的な要素になってしまうケースが結構あるのでお伝えしておきます。

「評価が最低だったとしても、毎年○円は昇給する」というような設計や運用になっている場合、それは年齢給と同じ意味になります

この場合、結局年齢給と同じようにいくらかずつ昇給していくことになります。努力してもしなくても、生存するだけで給与が上がる。これでは名称の違いこそあれ年齢給と違いません。

人事担当者と現場のギャップが原因に

年齢給に反対していて、上記のことを理解している人事担当者は制度で「最低評価の場合は昇給0」と制度設計しますが、「評価が悪くても多少昇給させないとかわいそうだ」と考えていくらかでも昇給させようとする管理職が人事部に対して働き掛けてくることはままあります。

放っておくと評価制度が崩壊することもある

現場管理職からの「昇給しないのはかわいそうだ」という考えに対し、人事部員がまるで石田三成のごとき厳格さで退けた先に待っているのは、更なる問題行動であったりします。

次に起こるのは、現場管理職が昇給しない人を「昇格させる」とか「最低評価を避ける」という行動をとることです。「昇給させることありき」で評価をしはじめるわけです。

評価をする前から最低評価が付かないと言うことが最初から決定してしまっているということが起きるわけです。年齢給的な考え方を退けた結果、評価制度が崩壊し始めるんですね。

例えば、相対評価の割合を決めている(SABCDの5段階で評価をすることにしていて、部署毎に平均はBになるように調整させる等)ような会社の場合、D評価が付かなくなるという現象が起きることで、Sが付く人が居なくなります。それによって、「どれだけ頑張ってもAどまり」ということが周知されてしまうんですね。 すると、今度はエース社員のモチベーションが低下し、S評価を取れるぐらいの成績が出せるにも関わらず「A評価が取れそうな成績ならそれ以上上を目指さない」という現象が起き得ます。

エースの給与はあまり上がらず、活躍をしていないベテラン層の給与が上がる。それによって「ハイパフォーマーは低い給与に愛想を尽かして退職」「成果が低いのに給与が高い人が残る」ことが起こり、慌てて給与を適正水準に戻そうとしたら組合が騒ぎ出す、という地獄のはじまりはじまり・・・(そしてこれが珍しい話じゃないというのが辛いところ)

制度を守るのは人事部のあなた!

年齢給的な要素を廃止して会社を目指す方向に導くためには、人事部員の覚悟と粘り強い啓蒙活動が重要になります。

どんなに自社に適した人事制度を作っても、流された運用を行なうことで制度の根幹自体が崩れてしまうことがあります。これは、言えば判ってくれる管理職が多いです。ただし、判るというのは頭で理解するという意味です。でも、現場の管理職には別の動機があります。「だって俺たち年齢は上だし」「昇給0を伝えるのってシンドイし」「俺の部で一人年功”っぽい”ことをしたって、全体に影響は与えないさ」

年齢給のまとめ

・年齢給はステレオタイプな昭和型人生にはマッチしており、給与額決定も容易。
・年齢給は従業員のモチベーションに繋がりづらいため、業績達成には不向き。
・運用次第では年齢給が知らず知らずのうちに発生することがある。
鍵を握るのは人事担当者

能力給とは

能力給とは、読んで字のごとく、職務を遂行するために必要となる能力を持っているかどうかに応じて支給される給与のことを指します。 Aさんは○○という能力を持っているから××円支払う、というような形です。

能力給は、年功序列を修正すべく生まれた考え方です。 前回のエントリにも記載しましたが、成果を上げるためには能力の向上が必要だろうという考え方から生まれています。

AMO理論というものが参考になります。AMO理論というのは

Performance(業績)をPとおいて、P=f(A,M,O)という算式で表されると考えられているものです。AはAbility(能力)、MはMotivation(意欲)、OはOpportunity(機会)の略で、能力と意欲と機会、そのどれか一つでも欠けたらダメという考え方。のことです

職能給のメリット

職能給を設定することで得られるメリットは主に以下3点です。

1.能力開発への意欲を高められる
2.ポストがなくても処遇できる
3.日本の雇用慣行に合っていた

 1.能力開発への意欲を高められる

まず一つ目は、年齢をただ重ねるだけでは能力が向上するわけではないため、従業員が能力向上をしてくれることが期待できます。この、能力向上を期待できるというのは、実は結構大きい効果があります。というのも、「成果向上したら給与を上げる」と、アウトプットに対してインセンティブを設計しても、従業員の行動に繋がらないことがあるからです。人間がやる気を出すのは「成果の出し方が判っているときだけ」ということを以前書きました。成果を上げるために必要となる能力を明示してあげることで、「この能力を身に付ければ良いのだな」ということを理解させることが出来るわけです。

2.ポストがなくても処遇できる

二つ目は、ポストがなくても処遇を向上させることができると言うことです。

例えば、部長1人、課長2名、主任、平社員という組織があったとします。ポストには上限があり、上の役職に行かなければ給与が上がることがない、というルールで運用しています。

このとき、課長の給与を上げるためには、部長になることが必要です。なので、部長が

・執行役員になるか、

・異動するか、

・辞めるか、

・新たな部が出来るか

・引きずり下ろすか

することで、部長の座をあけ、その座に潜り込まないと、課長は給与を上げられません。組織のポストに上限があるからです。しかし、どうしても部長になれなさそうだということを課長が感じてしまうと、モチベーションをあげづらくなります。例えば以下のような例です。

・執行役員になれなさそう

・異動しなさそう(例えば人事のことしか判らない人が人事部長をやっている場合、その他の部署に異動すると言うことは中々無いかも)

・辞めなさそう(終身雇用前提なら、部長が45歳なら15年待ち)

・新たな部が出来なさそう(事業拡大が見込めない会社なら、部を増やすことはなさそう)

・引きずり下ろせなさそう(物騒!)

しかし、能力によって評価する仕組みがあれば、「今は課長のポストしか空いていないけれど、部長も出来るぐらいの能力だから部長と同じ給与にする」というような運用が出来るわけです。
こうすることで、組織の都合には左右されず本人の能力向上を促すことができます

3.日本の雇用慣行に合っていた

職能による給与は、日本の雇用慣行に合っていたということも言えます。 日本の雇用慣行を具体的に言うと、主に「ジョブローテーション」・「ファジーな運用」です。

①ジョブローテーション

現在でも、多くの日本企業は従業員に様々な職務を経験させることを中心としています。文系でも最初の配属は生産現場になることもあるし、30歳ぐらいまでは様々な職場を転々とさせることで、企業内に人脈を作りつつ、多くの職場の考え方を学ぶというケースは大企業でよく見られるものです。

このとき、職務や成果で評価をしていると、異動したタイミングで一時的に役割や成果が低下することになるので、本人にとって短期的に処遇が低下することになります。しかし、全社で統一して使えるような能力で評価をしておけば、給与を下げることなく従業員を異動させることが可能になるわけです。

②職務給に比べ、作成手続きが比較的容易

次のエントリで記載しますが、職務給の設計は比較的難しいです。しかし、能力であれば、多少の評価誤差があっても気付きにくいし、ある程度の幅を持たせておけば運用することが可能です。そのため、「AさんとBさんと給与が違う」ことを、なんとなくごまかすことが出来るわけです。「なぁなぁ」で済ましたい日本人にマッチした考え方であると言えます。

職能給のデメリット

一方で、職能給は以下3点のデメリットがあります。

1.職務遂行能力は、潜在的能力であり、顕在能力ではない。
2.測定しづらい
3.職種横断的な同一項目(知識・技能、理解・判断力など)で表現しているため、担当職務とはかけ離れた抽象的な表現であること

職務遂行能力を定義するとき、多くの場合で「~~できる」「~~という能力を持っている」という語尾が使われます。この語尾が結構厄介で、目で見ることが出来ないわけです。そのため、人によって評価に差が出ます。同じ部内でも評価に差が生じることがしょっちゅうあります。

また、営業・製造・研究開発・間接部門・・・などで同じ評価項目を使うため、評価項目の表現が最大公約数的になってしまって、「どの部署でもイマイチぴんと来ない」表現になりがちです。

そして、それらが複合的に合わさって、評価しにくい項目で何となく評価することになるため、結局年功序列的な運用が成されることになるわけです。能力主義の顔をしながら、現実は年功的な給与設定となっていることによって起こる問題については、前回説明したとおりです。

結局、能力主義と言うと聞こえは良いけれど、測定しにくさを逆手に取られて、年功的な運用にされている、それが日本の多くの企業で見られる職能給の実態です。

能力給の修正版「行動給」

上記のように、能力給には一定のメリットがあります。しかし、顕在化していないものを測定しようとしているが為に評価基準が曖昧になる・年功序列的運用がされる・能力を上げても業績に繋がらないという問題が生じてしまっています。

職能給の「測定しづらい」という弱点を補うことが出来るのが行動給です。能力を持っていることは前提として、きちんとその行動として発揮されているか?と言うことを判断の基準とします。そのため、考課表にも違いが表れていて

能力給を採用している企業では「~~できる」「~~という能力を持っている」という語尾が使われるのに対して、

行動給を採用している企業では「~という行動を取っている」「~している」などの語尾が使われます。

要は顕在化している(外から見て測定出来るかどうか)と言うことがポイントです。

行動給はモチベーションも含んでいる

また、AMO理論に戻ると

Performance(業績)はAbility(能力)、Motivation(意欲)、Opportunity(機会)のどれか一つでも欠けたらダメという考え方。

行動給を上げる為には、能力があるだけではダメで、外から見て測定出来る行動として発揮していなければならないので、最低限のモチベーションはあるだろうということも測定出来るわけです。

行動給の弱点

しかし、そんな行動給にも、やっぱり弱点は残ります。行動が業績に繋がらない場合・行動を発揮出来ない場合の二つです。

まず一つ目が、みんながその行動を取ったとしても、業績に繋がらないことがある、という点です。例えば、どれだけリーダーシップを発揮しても、業績に繋がらないときというのはどうしてもあります。それでも、行動で評価をすると言うことを軸にした以上、行動が取れているなら評価するしかありません。
行動給を支払う、つまり行動で評価すると言うことを決めるときは、「高い成果を出している人の行動(コンピテンシー)をみんなが出来れば高い成果が出せるはず」というような考えに基づいています。

そのため、インタビューをしたりアンケート調査を行なうなどして帰納法的に考えたり、ベストな職務の流れを考えてから行動に落とす演繹法的に考えたりと、様々な方法で設計しますが、それでも環境や仕事の流れが変われば求められる行動が変わってしまうので、こまめに見直すことが必要になるわけです。

また、「行動を発揮するための機会が無い」場合にも従業員からの不満は高まります。例えばリーダーシップを発揮した行動を求めているのに、部下がいないとか言う状況などがそれに当たります。特に中小企業の25-26歳ぐらいの人だと、部署に誰も入ってこないので、いつまでたっても下っ端なのに、リーダーシップとか誰に発揮するんだよっていう話が出て来たりします。

能力給のまとめ

職業遂行能力に応じて支払われる給与は
・能力開発を促進し、ポストがなくても給与が上げられるメリットがある一方
・測定しにくいから、結局年齢給のような使われ方をしてしまっている。
・それに対応するために「顕在化した能力」である行動で評価するようになってきている。
・ただし、環境変化に応じて、項目を都度見直す必要がある

職務給とは

職務給はその個人が担当している職務のレベルによって給与額が変わる仕組みです。職務の価値に対して、評価項目を設定し、それぞれに対して数値で測定して格付けして職務等級を設定します。その職務等級に応じて給与を決めるという仕組みです。営業部長は80万円/月とか、営業課長は50万円/月というのを設定しておき、Aさんは営業部長だから80万円、Bさんは営業課長だから50万円/月を支払う、というように決まります。

職務の評価の仕方で有名な方法

職務の評価の仕方で有名なものにヘイグループが行なっているヘイシステムというものがあります。

職務の遂行には①知識・経験 ②問題解決 ③達成責任 の3つが必要であるという考え方に基づいて、それらを更に細かく分解した上で数値化します。

具体的には、上記の①②③を以下の8つの分類に分けます。

これについては知りたい人だけで大丈夫です。この内容はとばしてメリットデメリットのところだけ読んでも判ります。

①知識・経験
・その職務には、どれぐらいの知識・経験が必要か
・そのポジションでマネジメントする職務の幅
・そのポジションで必要になるコミュニケーション能力
②問題解決
・そのポジションで考えるべきテーマの視座の高さはどれぐらいか
・そのポジションで考えるべき難易度はどのぐらいか
③達成責任
・どのレベルの意思決定が出来るか
・どの程度の金銭的なアウトプットが求められるか
・成果に対してどのような関わり方をするか?

そして、これらに対して、例えば以下のような評価軸で判断するわけです。

(知識・経験の場合)
1.定型業務レベル
2.少し経験するか、少し訓練を受ければ出来るレベル
3.進め方を工夫できる
4.熟練レベル
5.専門化レベル
6.各業務について深く・広く知っている
7.社内で有名な専門家クラス
8.その分野で社外からも知られているレベル

で、職務のレベルを分析して、その職務は何点かを計算します。そしてそれを給与に反映するわけです。

職務給のメリット

職務給を会社に導入することのメリットは、主に以下の5つです。

1.同一労働同一賃金が実現される
2.専門家育成には合理的
3.職務内容が明確になる
4.人件費が高くなりすぎない

1.同一労働同一賃金が実現される

一つ目は、同一労働同一賃金が実現されるということです。○○という仕事に対しては×円というのを決めてから人をあてはめるからです。AさんもBさんも同じ“営業課長”なのに、Aさんの方が給与が高い、と言うことは基本的に起こり得ません。職能給だと、Aさんの方がBさんより能力が高いなら、二人とも課長でもAさんの方が給与が高いということが起こります。
また、それにより中途採用をしやすくなると言うことも言えます。他社で課長の給与が○万円らしい、ということが判れば、自社の課長の給与をそれぐらいに設定すれば良いからです。

2.専門家育成には合理的

二つ目は、専門家育成に合理的な方法だと言うことです。基本的に上の職務に上がらなければ給与が上がらないので、みんなその職務の中で上を目指すようになります。他の誰よりも専門性を獲得し、上の職務に上がらなければ給与増が見込めないからです。

これはデメリットの方にも出て来ますが、逆にローテーションを嫌がるということにも効いてきたりはします。

3.職務内容が明確になる

三つ目は、その職務に何をどれぐらいのレベルで期待するか、ということが明確になります。営業部長って何をする仕事?とかいうことが判るようになるわけです。また、職務等級を作っていく課程で副次的に得られる成果でもありますが、「この等級要る?」というようなことに気付くことが出来ます。例えば“課長補佐”と“課長代理”が共存しているような会社で、職務の測定をしてみたら点数に差が付かなかった、なんなら“係長”ともそんなに点数に差が付かなかった・・・ということはよくあることです。
じゃあ、係長と課長代理に給与差を設けておくことが正しいのか?と言う議論が数値を使ってできるようになるわけです。飲みの席での「課長代理なんて仕事やってねぇじゃねーかよぉ!」とかいうのとは訳がちがうんですね。
また、同じ課長でも、営業課長と製造課長のどっちが大変なのか、ということも判ります。それによって、会社にとって重要度の高いポジションを高く処遇することが出来るようになるわけです。よく、「○部の部長は楽な仕事してるのに▲部の部長はシンドイから不公平じゃないか!」とかいう話はよくありますよね。

4.人件費が高くなりすぎない

最後は、企業にとってのメリットです。ポジションに対して給与を決めてしまうので、組織の数が増えなければ人件費総額を増やさなくて済みます。職能給だと、従業員が能力開発を“してしまったら”給与を上げざるを得ない訳です。前回説明したとおり、課長の仕事をしている人でも、部長級の能力を持っていると思われたら部長と同じ給与を払うことになるからです。

*実際は職能給を入れている会社でも、昇給原資を絞ったりして多少の調整をしたりしますが、職務給ほど納得感を持たせた上で人件費をコントロールすることは難しい。

デメリット

一方で、職務給のデメリットは以下3つです。

1.組織が硬直化しやすい
2.ポスト不足の対応が困難・そのため能力向上モチベーションに繋がりづらい
3.運用が難しい

 1.組織が硬直化しやすい

まず一つ目は、組織が硬直化しやすい、ということです。異動がしにくくなると言うことです。職務給を導入していると、その職務に対して給与が支払われることになるため、基本的に他部署に異動すると言うことは今まで自分が積み上げてきた能力をリセットしてしまうことになるからです。例えば、人事だけでやってきた人が人事課長になっていたとして、経理に異動となると専門性がないから経理のイチ担当者になるわけです。そうなると、給与が下がってしまうので経理には行きたがりません。

転職をするときに全く未経験の職種に行くときは、だいたい給与水準が下がりますよね。それが社内異動でも起きえると言うことです。職務給は市場の原理が色濃く出やすいんです。

2.ポスト不足の対応が困難・そのため能力向上モチベーションに繋がりづらい

二つ目として、ポスト不足に対応出来ないと言うことがあげられます。職能給の所でも書きましたが、

例えば、部長1人、課長2名、主任、平社員という組織があったとします。ポストには上限があり、上の役職に行かなければ給与が上がることがない、というルールで運用しています。

このとき、課長の給与を上げるためには、部長になることが必要です。なので、部長が

・執行役員になるか、
・異動するか、
・辞めるか、
・新たな部が出来るか
・引きずり下ろすか

することで、部長の座をあけ、その座に潜り込まないと、課長は給与を上げられません。組織のポストに上限があるからです。しかし、どうしても部長になれなさそうだということを課長が感じてしまうと、モチベーションをあげづらくなります。例えば以下のような例です。

・執行役員になれなさそう
・異動しなさそう(例えば人事のことしか判らない人が人事部長をやっている場合、その他の部署に異動すると言うことは中々無いかも)
・辞めなさそう(終身雇用前提なら、部長が45歳なら15年待ち)
・新たな部が出来なさそう(事業拡大が見込めない会社なら、部を増やすことはなさそう)
・引きずり下ろせなさそう(物騒!)

というようなことが起きるわけです。

会社にとって必要なポスト(≒役職)は決まっているのに、特定の世代(団塊の世代やバブル世代など)は入社が多いということがあります。その世代が「そろそろ課長になりたいな」と思っても、ポストがなければ昇給することがありません。その中の一人だけが課長になることができるわけです。だから、残りの人たちの中にはふてくされる人が居てもおかしくありません。

3.運用が難しい

最後が、設計と運用の難しさです。冒頭のヘイシステムの説明を読んで「うげっ!」と思われたでしょうが、それが正直な気持ちでOKです。 とにかく設計と運用が難しいんです。特に、なあなあで済ましたくなる日本企業では割とアレルギーが出やすいところです。また、新しい職務が出来たら職務測定を行なわなければならなくなります。これが結構な負担になるんですね。

日本企業では導入されづらいが、これからは必要になる

職務等級の制度は、個人的に結構好きな制度ですが、それでも日本企業での導入はあまり進んでいません。おおよそ10-20%程度の導入に留まります。(職能は50%ぐらい)
それは、やっぱりメリットよりデメリットのところが注目されてしまいがちだからです。ローテーションさせたいし、あやふやにしておきたいし・・・というところですね。

しかし、日本企業が今直面している「既存の事業が縮小期に入っている状況で、新たな収益の柱を見つけなければならない」という状況では、職務等級の中途採用のしやすさ、というのが結構効いてきます。

あと、海外展開の必要性も高まってきている今、外国では割と一般的な職務等級制度を入れておくことで、海外での人材獲得がしやすくなることも見落とせないメリットでもあります。

職務給のまとめ

・職務給は仕事の重要度・困難度や責任の重さに寄って決められ、市場価格とマッチさせやすいメリットがある一方
・ローテーションに向かないことや、能力向上を諦める人も出て来てしまうというデメリットがある。
・ただし、今後の企業の成長の為には避けて通れない考え方かもしれない

成果給とは

成果給は、個人や組織が出した成果に応じて給与が変動するという仕組みです。売上高とか、受注高とかで決まるようなイメージですね。なので、営業系職種とかでは良く見られます。

給与と完全連動させているという歩合制の給与であることもあれば、ある程度で頭打ちになるという仕組みを取ったりしていることもあります。

上限を設定しないことは企業と本人の同意次第で自由ですが、ただし完全歩合制という表現をしていたとしても、働いた時間分×最低賃金の時給は支払う必要があります。

成果給のメリット

成果給のメリットは以下の通りです。

1.判りやすく、公平感・納得感に繋がりやすい

まず、本人の成果に従って給与が計算される(多くは一次関数ぐらいのレベル)ため、本人にとって給与が計算しやすい仕組みになります。

「アイツの方が給料が高いのは、アイツの方が俺よりたくさん売ったからだ」ということは、悔しいと思う気持ちこそあれ、制度に納得しているのなら「そんなもんかな」と思うことが出来るわけです。

2.業績達成意欲が高まりやすい

また、非常にシンプルな計算方法で出来ている為、成果を上げれば良いということは明確に伝わります。そのため、従業員は成果達成の為の意欲を高く持つことになります。雇用関係にあるとか言いながら、最も「個人事業主」感が強くなると言えます。「頑張ったから評価してくれ?ヌルいこと言ってんじゃないよ」ということですね。

3.企業にとっても判りやすく、計算しやすい

企業にとっても、配分方法さえ間違わなければ人件費で赤字になることを回避しやすい仕組みであると言えます。たとえ、平均年収500万円ぐらいの会社の中に、3000万円のプレーヤーがいたとしても、500万の人たちが2000万円稼いでいて、3000万円の人が1億円稼いでいるなら、(収益上は)特に問題ありません。
職能給・職務給・年齢給では、人件費上昇の割に業績が上がらない、ということも起こり得ます。

デメリット

成果給のデメリットは、主に以下の5つです。
1.短期的になりすぎる

2.組織行動に繋がりにくい

3.人が辞めやすい

4.行動に繋がらない人も居る

5.給与計算担当者の負荷が重い

1.短期的になりすぎる

一つ目は、完全に成果だけで評価されると、短期的な視点が強くなりすぎてしまうことです。いくら種まきが必要だと言うことを理解させても、今月の給与が大幅に減るとなると、その種を食べざるを得ません。成績が振るわないときに短期的な視点に立ってしまって、すぐに得られる果実に飛びついてしまうわけです。そのため、成果が出るまで数年かかるようなプロジェクトに携わりたがらないなどの現象が起きます。
また、成績さえ上げれば良い、という考えが強く打ち出されてしまうと、コンプライアンス意識の低下をも招いてしまうことに繋がります。

2.組織行動に繋がりにくい

二つ目は、組織としての行動に繋がりにくいことです。それが給与に繋がらないのなら、誰が人材育成などするというのでしょう。また、ノウハウの共有も滞りやすくなります。個人の知識は個人のもののまま、と言うことが起きるわけです。
また、育成やノウハウ共有がされないことによって管理職の育成なども難しくなります。管理職からは職務給に変わる、という仕組みを取っている会社もありますが、これをするとエースは管理職に移ったときに給与が低下することを嫌がる例が多く見られます。

そして、営業成績がトップでない人が管理職になると「何故あの人が俺の上司に?」という不満が生じてしまうわけです。 成果給を導入していると「たくさん成果を出す奴が偉い」という考えが強く印象付いてしまうため、「俺より業績の悪いアイツが管理職になったけど、なんで俺がアイツの言うこと聞かなきゃならないんだ」という不満が生まれやすいわけです。
そこで、会社としては「マネージャーはマネージャー、プレーヤーはプレーヤーだから、役割の違いを理解するように」などの研修を行ないたがりますが、成果給で働くことを好む人たちは組織管理の研修すら嫌がることが多いです。だって組織管理の研修を受けても個人の業績に繋がらないからですね。

また、異動をかなり嫌がるようになるので組織も硬直化します。職務に対して給与が支払われている場合なら、営業担当者が大阪支店から広島支店に変わることも特に文句はないでしょうが、成果に対して給与が支払われている場合、職種が同じであっても地域が変わると成果がしばらく落ちることになるので、相当な抵抗を受けることになります。

3.人が辞めやすい

三つ目は、退職しやすくなることです。成果が出ない人や、ある程度の年齢になって家庭を持った人などは成果給を避けるようになります。(前者については計画的に辞めさせているケースもあります)

また、同業他社などから「より高い歩合で」誘われたときにも転職してしまいやすくなります。

4.行動に繋がらない人も居る

当ブログでも何回か書いていますが、アウトプットにインセンティブを用意しても「どうやれば成果が出せるか」ということが判らない人たちにとっては行動に繋がりません。

そのため、成果給の導入時には、どうやれば成果が出せそうか、ということも合わせて伝えて上げる必要があります。

5.給与計算担当者の負荷が重い

最後は給与計算(社会保険)担当者の負荷が重たくなりすぎることです。人事担当者ならわかることでしょうが、毎月給与が変動すると極めて手続きが大変です。そのため、毎月給与改定することはあまり現実的ではありません。そのため、賞与で一括払いにするとか、年次の改定にするとかを行なうことになります。

成果給はあまり月例給に向かない仕組みではある

上記のように、納得感が高い割にはデメリットが大きいため、月例給には向かない仕組みです。成果給を導入するなら賞与などでされることをお勧めします。
ただ、それでも、不動産などの営業や人材紹介、水商売、コンサルタント(実は私も)など成果が見えやすい仕事には向いている仕組みではあります。
また、「設計次第では赤字になりにくい」「独立心が強い人に向く」という特性を捉えれば、スタートアップ(起業仕立て)の企業で採用しておくと会社の成長にも繋がりやすいと思います。人材育成の余裕がなくても、「それでもいい」と思う人たちが来ることになりますし。

成果給のまとめ

成果給は
・成果配分というイメージが強くなるため、独立心が強い人たちに向き、
・企業が赤字にならないように設計できるので個人業績が強く出る職種に向いている一方
・短期的・独善的な行動を生みやすいため、安定組織には向きにくい。