目標管理制度を導入している企業では、目標設定のガイドラインに「自身の現在の能力では少し達成が難しそうな、ストレッチしたチャレンジ性のある目標を設定すること」といった項目を設定している企業が多く見られます。
企業の人事制度担当者には、考課者から「毎年毎年チャレンジ性のある目標なんて立てられないよ」「私の部署はルーチン作業が多いのでチャレンジなんて考えられない」という相談(本連載では、考課者から人事担当者に寄せられる愚痴や不満を、建設的に考えるために”相談”と記載しています)が投げかけられることもよくあるのではないでしょうか。
そこで、「何でもいいので、新しいことを探して設定させましょうよ」と回答すると、業務に関係の無い目標を無理矢理立ててしまい、不必要な業務が増えると言うことが起こりかねません。「では、あなたの部門は特別に現状維持の目標でいいですよ。」と回答すると、本来の目的である会社や従業員の成長が実現できなくなる恐れがあります。では、どのように回答すべきでしょうか。
相談者はどんな状態にあるのか?
相談を受けたときにまずすべきは、相手の状態の把握です。相談者は「今年の自部門には、チャレンジ性のある業務はない」と感じています。これは「現状に問題がない」と考えているとも言えます。ルーチン業務で頭がいっぱいになってしまっているのかもしれません。
また、”チャレンジする”という言葉から、”新規性のあること””難易度の高いこと”でなければならないと考えてしまい、身構えてしまっている可能性があります。
目標設定において管理職が目指すべき状態とは
次に、業務の目標設定において管理職が目指すべき状態を考えます。ルーチン業務の割合が高い組織であっても、今後何十年にわたって現状維持で良いという組織はありません。精度を上げたり、効率化して速度を上げたり、より少人数で同じ業務を出来るようにしたり、業務の属人化を廃して誰でも出来るようにしたりと、改善するべきことは多くあるでしょう。
また、相対する顧客の環境変化や、法律・経済・社会・技術など組織の外部を取り巻く環境は日々刻々と変化をしていることでしょう。
そのため、管理職には常に現状を客観的に把握し、組織として出すべき成果を明確に打ち出すことが求められます。
問題解決の為の方向性
現状を把握し、あるべき姿を実現するためには、あるべき姿を描く・現状を認識する・現状とのギャップを埋めるための施策を考える、の3つのステップをたどることになります。
考課者への具体的な質問例
では、どういった問い掛けをすれば考課者の目指すべき姿に導くことが出来るのでしょうか。
まずは、人事担当者の問い掛けによって現状を客観的に把握する手助けをする為の質問例をご紹介します。
現状分析を促す質問例
現状のチーム運営に100点満点で点数をつけるとすれば何点でしょうか?
現状把握が出来ていない・しようとしていない考課者に対しては、現状に疑問を持たせることが必要です。しかし、他人から「ここが出来ていない」と言われるとかたくなになってしまいます。あくまで考課者自身に現状の問題点を気付かせる必要があります。
現状を数値で表現することを求められると、満点をつけられる人はほぼ居ませんので、多くの場合、100点以下の回答が返ってきます。そこで追加でこう問いかけましょう。「○点と言うことは、100点まで残り△点必要ですが、△点を埋めるためには何が必要だと思いますか?」これによって、現状の問題点を認めた上で更によくするためのアクションを考えることに目を向けやすくなります。(万が一100点と回答されたら、120点にするためには何が必要か問いかけましょう)
つぎに、組織として目指すべき成果をイメージさせる質問を考えます。
組織として出すべき成果をイメージさせる質問例
①今期末に、チームがどういう状態になっていれば良いですか?
②今後起こりそうな、内部・外部環境の変化にはどのようなものがありますか?
①は、問い掛けによってあるべき姿を想起させるアプローチです。この問いに答えられるということは、既に考課者の中に目指すべき成果があるということですが、問い掛けによって言語化を促すことが出来ます。
また、出すべき成果が具体的になっていない場合は、②のような問い掛けを行ない、内外の環境分析に目を向けさせると、具体化を促すことができます。
さいごに、”チャレンジ”ということばを難しく考えてしまっている考課者には、以下のように変数を固定するとで、アイディアを出しやすくなることがあります。
チャレンジの定義を見直す質問例
・今までと同じ時間で、より多くの成果を出すことは出来ないでしょうか?
・今までと同じ時間で、より高い品質の成果を出すことは出来ないでしょうか?
・成果を変えずに時間を短縮する方法はありませんか?
人事担当者のみなさんからすれば、この次元の質問をすることは大変な手間に感じられるかも知れません。しかし、生まれついての管理職は居ませんし、管理職を変えることが出来れば、彼らの部下の行動を変えることができます。人事部門として、多少の苦労は惜しむべきではないでしょう。
おわりに
”チャレンジ”ではなく”難易度”という軸で評価をする企業もあります。その場合、①難易度②会社業績に対する影響度③目標の達成度の3つの観点を点数化し、①×②×③で計算して目標管理の点数化をする運用をするケースが多いようです。この数式を用いると、以下の二つの目標は達成度が同じであれば同じ評価点数が算出されることになります。
・高難易度、影響度が低い目標
・低難易度、影響度が高い目標
しかし、会社にとって取り組むべき課題はどちらかと考えると、後者であることは明らかなはずです。本連載のテーマは、”ボヤく管理職に逆質問で気づきを促す”ですが、人事制度を運用する側は、現在の制度が本当に会社業績向上に貢献しているのか、建設的に自己批判を続ける姿勢が必要です。
目標管理をはじめとした人事制度は、上手く使えば現場管理職のマネジメント能力を引き上げることが出来ます。そして、現場管理職からの相談は、現場の現状を把握する良い機会になります。
PDFは以下よりご覧ください。
https://drive.google.com/open?id=1HAH-kbfD22zMSF23lGEOncImynzik5Q4
本記事は月刊人事マネジメント様との契約に従い、発刊後1ヶ月経過したため公開しているものです。