「結果が出なかった部下も、頑張ったから評価してあげたいんだけど」という管理職の悩みに対してどう答えるか

  • 人事制度設計

「結果が出なかった部下も、頑張ったから評価してあげたいんだけど」

人事考課は管理職にとって重要な業務です。中でも、部下に非情な考課結果を伝えることは心理的負荷の非常に大きい行為になります。普段から苦楽を共にし、頑張っている姿を見ている部下であれば尚更です。そのため、多くの企業で成果と乖離する優しい(甘い)人事考課を行なう例が見られます。
このような相談に対し「かわいそうですから高く評価しても良いですよ。」としてしまうと、成果を出さずとも頑張りさえすれば(あるいは上司に対して頑張っていることをアピールしさえすれば)評価されるのだという意識を持たせてしまう可能性があります。また、評価軸がぶれてしまうと人事制度全体が揺らぐことにもつながりかねません。

相談者の今の状態は?

相談を受けたときにまずすべきは相手の現状把握です。相談者の発言からは「成果ではなく、インプット(労力や労働時間)の量で判断をしているのではないか」と推測されます。また、目標を達成することに考課者自身があまり執着出来ていない可能性があります。

管理職が目指すべき状態とは?

次に、管理職が目指すべき状態を考えます。
言うまでもなく、業務の目標ではどんな要因があったとしても、目標達成を目指す必要があります。達成してもしなくてもいいようなものであれば、そもそも目標として設定する意味がありません。
また、会社の中で責任が重くなるにつれ、努力をしたか・能力がどれだけあるかではなく、結果が求められるようになります。そのため、管理職は部下が将来成果を出せる人材になれるよう、指導を行なう必要があります。
目標達成のために、期初にマイルストーンや行動計画を設定しておくことは有用です。しかし、それでも想定し得ない阻害要因は起きるものです。(順風満帆に1年間終わった年が、この10年であったという方はどれだけいらっしゃるでしょうか?)そして、阻害要因が発生したからといって、それを未達成の言い訳として認めてしまうと企業の成長が停滞してしまいます。
そのため、管理職には部下の目標の進捗状況を把握することが求められます。そして、進捗の遅れが生じたり達成が難しくなったりしている場合は原因を特定し、助言や指導を行なったり支援体制を作るなどを行なって解消する必要があります。半年間・1年間の業務指導を行なわないでおいて、評価の時にいい顔をするために高い評価をつけるのは部下の為にもなりません。

問題解決の為の方向性

部下が目標を達成できるために管理職に求められる能力は以下3点であると言えます。

①投入した経営資源(この場合は労力や時間)ではなく、結果へのこだわりを持つ
②進捗を管理し、ペースをコントロールすることができる
③必要に応じて支援・動機付けすることができる

考課者への具体的な質問例

ここからは、人事担当者から相談者に対する問い掛けの例をご紹介します。

評価に対する考え方を見つめ直させる質問例

・おっしゃるような評価をつけることで、部下はどう感じ、どう成長するでしょうか?

人事考課は、組織の目標やスローガン以上に部下の行動に影響を及ぼします。こう問いかけることで、人事考課が与える部下への影響について具体的にイメージをさせることが出来ます。この問い掛けでも具体的な回答が得られない場合は、もう少し簡単にイメージできるよう、以下のような表現にすることも有効です。

・結果が出なかったのに評価をしてしまったら、結果への拘りを持たないように成長してしまわないでしょうか?
・努力さえすれば評価されると思わせてしまうことは、結果的に部下の為にならないのではないですか?

進捗管理の必要性に気付かせる質問例

・目標の達成が難しそうだということに気付かれたのはいつ頃ですか?
・もう少し早く気付く為には、どういう取組みが出来るでしょうか?

この問い掛けにより、目標達成の為には上司による進捗管理が必要であるということを管理職がイメージすることを促します。目標管理制度を導入している企業では、期初と期末に加えて、中間面談を義務付けているケースが多く見られます。しかし、目標の完遂を目指すのであれば、3ヶ月に1回や毎月など、更に頻度の高い進捗確認が求められます。

支援・動機付けの必要性に気付かせる質問例

①目標達成が難しくなった一番の要因は何だと思いますか?
②あなたが部下の立場だったら、目標達成の為にどのような取組みをしていましたか?
③目標達成できた部下の取り組みと、出来なかった部下の取り組みとの間には、どんな差がありましたか?

①は問い掛けによって達成できなかった理由に支店を向けさせアプローチです。その後②を問いかけることで、目標達成の為に期中に施策を変化させる必要があることを想起させます。③のように問い掛けると、更に具体的な行動のレベルまでイメージさせることが出来ます。

自分で立てた目標なら、高いモチベーションを保って、必ず達成できる?

「部下の目標は、上司から押しつけるべきではない。なぜなら、部下に目標を立てさせることで、部下自身の目標に対する主体性が強化され、目標完遂に対して意欲が高まるからだ。」と言われることがあります。それは正しい側面もあるかもしれません。しかし、そもそも目標を自分で立てただけで達成できるのであれば、世の中の人の新年の目標は達成されることになります。しかし、難関資格を取得出来る人やダイエットに成功する人は限られています。もちろん自己管理が出来るのに越したことはありませんが、周りからの働き掛けも重要となります。

おわりに

目標管理をはじめとした人事制度は、上手く使えば現場管理職のマネジメント能力を引き上げることが出来ます。そして、現場管理職からの相談は、現場の現状を把握する良い機会になります。

PDFは以下よりご覧ください。

https://drive.google.com/open?id=1VME5E6RON_9INM6yPR6uEuGNmKi1l_8s

本記事は月刊人事マネジメント様との契約に従い、発刊後1ヶ月経過したため公開しているものです。